Created on September 04, 2023 by vansw

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「いや、とても素敵だよ。 いつもと同じくらい」とぼくは言う。それは偽りのない意見だ。きみ


は隅から隅まで素敵だ。 いつもと同じように。いや、いつも以上に。


「いや、いつも以上に」とぼくは付け加える。


嘘よ、ときみは言う。


嘘じゃない、とぼくは言う。


きみはしばらく沈黙している。それから言う。


「小さいときから、こんな風にとっても面倒くさい性格なの。だからわたしのことを好きになっ てくれる人なんてひとりもいなかった。 わたしを受け入れてくれる人もいなかった。 亡くなった おばあさんだけを別にして、ただのひとりも。でもおばあさんはもう死んじゃったし、死んでし まった人のことは、正直言ってよくわからない。 おばあさんはただ何か思い違いをしていたのか もしれない」


「ぼくはきみのことが好きだよ」


「ありがとう」ときみは言う。「そう言ってくれるのはとても嬉しい。でもそれはきっと、まだ わたしのことを知らないからよ。 もしわたしのことをもっとよく知れば――」


「もしそうだとしても、きみをもっとよく知りたい。 いろんなことを、あらゆることを」


「中には、知らない方がいいこともあるかもしれない」



「でも誰かを好きになったら、相手のことをどこまでも知りたいと思うのは自然な気持ちだよ」 「そしてそれを引き受けるの?」


「そうだよ」


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