Created on September 04, 2023 by vansw

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「ときどき、こうなってしまうの」、 きみは涙を白いハンカチーフで拭きながらそう言う。 その ときには、涙はもうほとんどとまっていたのだけれど 涙の供給が尽きたのだろうか?)。ぼく らはまだ公園の藤棚の下で、ベンチに並んで座っている。 それがその朝きみが最初に口にした言 葉だ。


「心がこわばりついてしまう」


ぼくはやはり黙っている。 何をどう言えばいいのか?


きみは言う。「そうなると、自分ではどうすることもできない。どこかにしがみついて、時間 をやり過ごすしかない」


ぼくはきみが伝えようとしていることを、少しでも理解しようと努める。


心がこわばりついてしまう?


それが具体的にどんな状態を意味するのか、想像がつかない。身体がこわばるのは理解できる。 たぶん金縛りのようなものだろう。しかし心はどのようにこわばるのだろう?


「でも、今回のそれはなんとかやり過ごせたんだね?」 ぼくはとりあえずそう尋ねてみる。


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87 第一部