Created on September 02, 2023 by vansw
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「どうしてそんなことをあんたは知りたがるんだね?」と門衛は怪訝そうな顔で私に尋ねた。 「この街がどんな格好をしているか、知ったところで、なんの役に立つ?」
純粋な好奇心によるものなのだと私は説明した。 知識として得たいだけだ。何かの役に立つか どうかではなく......。 しかし門衛には「純粋な好奇心」という概念が呑み込めないようだった。 それは彼の理解能力を超えたものごとなのだ。彼は顔に警戒の色を浮かべ、こいつ何か良からぬ ことを企んでいるのではないか、という目で私を眺めまわした。 だから私はそれ以上彼に質問す ることを諦めた。
「あんたに言いたいのはね」と門衛は言った。「頭に皿を載せてるときには、空を見上げない方 がいいってことさ」
それが具体的に何を意味するのか、今ひとつわからなかった。 しかしそれが哲学的省察という より、実際的な警告に近いものであるらしいことは理解できた。
他の人々が 君をも含めて 私のその質問に対して示す反応も、門衛のそれと似たり寄っ たりだった。街の住民たちは、自分がどれほどの広さを持つ、どんなかたちをした場所で暮らし ているか、そんなことにはまるで関心を払っていないらしかった。そしてそのような事柄に興味 を持つ人間が存在するという事実が、うまく呑み込めないみたいだった。それは私には不思議な ことに思える。自分が生まれ、暮らしている場所についてより多くを知りたいと思うのは、人が 自然に抱く気持ちではなかろうか。
この街には好奇心というものがもともと存在しないのかもしれない。あるいはもし存在してい たとしても、きわめて希薄なものであり、 また範囲を狭く限定されたものなのだろう。考えてみ