Created on September 02, 2023 by vansw
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どれくらい長く歩き続けただろう? 時折交差点で立ち止まり、信号が青に変わるのを待つ。 そんなとききみの手を握りたかったが、 きみは両手をスカートのポケットに突っ込んだまま、ま っすぐ前を見つめている。
ぼくはきみを何かで怒らせてしまったのか? どこかで間違ったことをしでかしたのか? い や、そんなはずはない。 ぼくらは二日前の夜、電話で話をした。そのとききみは上機嫌だった。
あさって
明後日会えるのをとても楽しみにしていると明るい声で言った。そのあとぼくらは言葉を交わし
ていない。 きみがぼくに対して腹を立てる理由は何もないはずだ。
落ち着かなくては、と自分に言い聞かせる。 ぼくがきみを怒らせたわけじゃない。 たぶんきみ はぼくとは関わりのない、何かきみ自身の問題を抱えているだけなのだ。 ぼくは信号を待つあい 何度も深呼吸をする。
三十分くらい歩き続けたと思う。 もう少し長かったかもしれない。気がついたとき、ぼくらは 元いた小さな公園にいた。街を目まぐるしく歩き回って、結局出発点に戻ったわけだ。 きみはま っすぐ藤棚のベンチに向かい、何も言わずにそこに腰を下ろす。 ぼくも隣に腰を下ろす。 最初と 同じように無言のまま、ぼくらはそのペンキのはげかけた木製のベンチに並んで腰掛けている。 きみは顎を引き、前方の空間にある何かを見つめている。ほとんど瞬きもせず。
第
ブランコに乗っていた二人の女の子は姿を消していた。 二つのブランコが五月の日差しの下で、 微動だにせず垂れ下がっている。 揺れていない無人のブランコはなぜかとても内省的に見える。 それからきみはぼくの肩に、その頭を軽くもたせかける。 まるでぼくがそこにいることを急に 思い出したように。 ぼくはもう一度きみの小さな手の上に、ぼくの手を置く。 ぼくらの手の大き
部
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