Created on September 02, 2023 by vansw

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たくないと思ったのではないか? そう考えると、恥ずかしさに耳たぶが熱くなる。 そういうの って仕方ないことなんだ、とぼくは言葉を尽くしてきみに説明し、弁明する。 それは大きな黒い 犬みたいなものなんだよ。いったんある方向に動き始めると、もう手の施しようがないんだ。 ど れだけ強くロープを引っ張っても


約束の時刻より四十分遅れてきみは姿を見せる。 そして何も言わずに、 ベンチのぼくの隣に腰 を下ろす。 遅れてごめんねとか、そんなことも一切口にしない。ぼくも何も言わない。ぼくらは 口を閉ざしたままそこに並んで座っている。 小さな女の子が二人、ブランコに乗っている。どち らが大きくブランコを漕げるか競っている。 きみの息遣いはまだ荒く、額にうっすらと汗も浮か んでいる。たぶんここまで走ってきたのだろう。呼吸をするたびに、胸が盛り上がったり引っ込 んだりする。


きみは丸襟の白いブラウスを着ている。 ぼくが電車の中で思い浮かべたのとほぼ同じ、飾りの ないシンプルなブラウスだ。 そこにはぼくがさっき(想像の中で)外したのと同じような小さな ボタンがついている。 そして紺色のスカートをはいている。 ぼくが先ほど思い浮かべたものとは、 色の濃さこそ少しばかり違うものの、おおよそ同じ見かけの紺のスカートだ。 きみがぼくの想像 したのと妄想したという方が近いだろうかほとんど同じ服装をしていることにぼくは驚 き、言葉を失ってしまう。そして同時にやましさのようなものを感じずにはいられない。でもそ れ以上のことを思い浮かべないようにぼくは努力する。いずれにせよ、簡素な白いブラウスと無 地の紺色のスカートという身なりのきみは、日曜日の公園のベンチでまぶしく美しく見える。


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