Created on August 29, 2023 by vansw

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ない。


「外の世界にいる君と出会ったとき」と私は言う。「私は君に彼女に恋をしたんだ。あっと いう間もなく。 私はそのとき十六歳、 彼女は十五歳だった。 今の君と同じくらいの年齢だ」


「十五歳?」


「そう、外の世界の基準では、彼女は十五歳だった」


我々は君の住居の前で立ち止まり、最後になるかもしれない会話を交わしている。雪は止んで いるが、 凍える夜だ。


「あなたは壁の外の世界で、私の影に恋をした。 そこでは彼女は十五歳だった」と君は自らに告 げる。 理解不能なものごとを、理解できないと改めて確認するかのように。


私は言う。「私は彼女を強く求め、同じように彼女に求められたいと望んでいた。でも一年後 のあるとき、彼女は突然姿を消してしまった。予告もなく、説明らしい説明もなく」


君はもう一度緑色のマフラーを細い首に巻き直す。そして肯く。 「仕方のないことよ。影はい ずれ死んでいくものだから」


「彼女にもう一度会いたくて、この街にやって来た。 ここに来れば会えるかもしれないと思った んだ。しかしそれと同時に、君にも会いたかった。それも私がこうして壁の内側に入ってきたひ とつの理由になっている」


「私に?」と怪訝そうな顔で君は言う。「でも、なぜ? なぜ私に会いたかったの? 私はあな たが恋した十五歳の少女じゃない。私たちはもともとはひとつだったかもしれないけれど、小さ いときに引き剥がされ、 壁の内と外とに離ればなれになり、別の存在になった」


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