Created on August 29, 2023 by vansw
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図書館に向かって歩いている途中で雪が降り始める。 乾いた小粒の雪片、 溶けるのに時間がか かりそうな雪だ。しかしそれが積もる雪になるかどうか、まだ判断がつかない。
図書館に着いたとき、薪ストーブは普段通り赤々と勢いよく燃えている。その上で大きな黒い 薬罐が湯気を出している。 君は庭から摘んできた薬草を小さなすりこぎで潰している。 手間のか かる作業だ。そのこりこりという辛抱強く均一な音が耳に届く。 私が部屋に入っていくと君は作 業の手を休め、顔を上げて小さく微笑む。
「もう雪は降り始めた?」
「まだほんの少しだけど」と私は言う。私は重いコートを脱ぎ、壁際のコートラックに掛ける。 「今夜はそれほどの降りにはならないはずよ。積もることはない」と君は言う。おそらくそのと おりになるだろう。いつものように。
部
君の手で古い夢の埃が払われ、机の上に置かれ、私は読み始める。 手のひらで包み込むように して温め、活性化させる。 古い夢はほどなく目覚め、そのメッセージを聴き取れない言葉で語り
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