Created on August 29, 2023 by vansw

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ないものだから」


「でも、どうしてそれをあえて鎮めなくちゃならないのだろう? 密閉容器に封じ込められ、深


い眠りを貪っているのなら、そのまま放っておけばよさそうなものだが」


「どれだけきつく封じ込められていても、それらがそこに存在しているってこと自体が脅威なん です。それらが何かの拍子に力をつけ、一斉に殻を破って外に飛び出してくること――それが街 にとって潜在的な恐怖になっているのではないでしょうか。もしそんな事態が生じたら、街はあ っという間にはじけ飛んでしまうでしょう。 だからこそそれらの力を少しでも鎮めて解消してお きたいんです。 誰かが古い夢たちの声に耳を傾け、見る夢を一緒に見てやることで、その潜在熱 そしてそれができるのは、今 彼らはおそらくそれを求めているのでしょう。 のところあんた一人しかいません」


量が宥められる


私は二つの思いの狭間に立たされている。


この街の図書館で日々君と顔を合わせ、 なたね油のランプの投げかける明かりに照らされ、夢 読みの作業を共にすることの幸福。粗末なテーブルをはさんで君と語り合い、君が私のために作 ってくれた薬草茶を飲む愉しみ。毎夜、仕事の終わったあと、君を家まで歩いて送るひととき。 そのどこまでが実体なのか、どこからが虚構なのか、私にはわからない。それでもこの街はその ような歓びを、心の震えを私に与えてくれている。


そしてもうひとつは、壁の外の世界でのきみとの交流、そしてそれが私の心に残していった確 かな記憶だ。きみと待ち合わせた小さな街中の公園、 少女たちが乗ったブランコが立てるリズミ


なだ


むさぼ


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