Created on August 29, 2023 by vansw

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んか。どうしてまた、そんなことをおれに尋ねるんです?」


「でも君はここにいて、それについての話は何か耳にしているだろう。 門衛や、ここを訪れる人 たちから」


影は静かに首を振った。 「図書館に古い夢が集められて、 夢読みがつまりあんたが――そ れを日々読んでいるってことはみんな知っています。 そしてあんたが毎晩、作業を終えたあとに 彼女を家まで送り届けていることもね・・・・・・なにしろ小さな街ですから。 でもあんたが日々古い夢 を読むことが、街にとって何を意味するのか、どんな役割を果たしているのか、本当のところは 誰も知らないんじゃないか。 そんな気がしますよ」


「でもそれは重要な意味を持つ作業であるはずなんだ。 私はこの街で、それを読む特別な役目を 与えられているし、街は私がその作業を続けることを強く望んでいるらしい」


影はひとしきり乾いた咳をし、しばらく考え込んでいた。 私はポケットに入れていた両手を出 して、膝の上で擦り合わせた。 部屋は冷え込んでいた。


影は言った。 「前にも言ったことですが、ここにいる彼女が実は影で、壁の外にいた彼女が実 は本体だったという可能性は考えられませんか? おれはずっとそのことが気になっていて、 こ こに来る人たちに話を聞いて、切れ切れの情報を集め、おれなりに考えを巡らせました。 そして こういう仮説を得たんです。 ここは実は影の国なんじゃないかって。 影たちが集まり、この孤絶 した街の中でみんなで身を寄せ合い、息を凝らすように暮らしているんじゃないかって」


「でももし君が言うように、ここが影たちの国であるなら、 なぜ本体である私が街に入り、影で ある君がここに閉じ込められて死にかけているんだ? 逆なら話はわかるけれど」



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