Created on August 29, 2023 by vansw
147
んか。どうしてまた、そんなことをおれに尋ねるんです?」
「でも君はここにいて、それについての話は何か耳にしているだろう。 門衛や、ここを訪れる人 たちから」
影は静かに首を振った。 「図書館に古い夢が集められて、 夢読みがつまりあんたが――そ れを日々読んでいるってことはみんな知っています。 そしてあんたが毎晩、作業を終えたあとに 彼女を家まで送り届けていることもね・・・・・・なにしろ小さな街ですから。 でもあんたが日々古い夢 を読むことが、街にとって何を意味するのか、どんな役割を果たしているのか、本当のところは 誰も知らないんじゃないか。 そんな気がしますよ」
「でもそれは重要な意味を持つ作業であるはずなんだ。 私はこの街で、それを読む特別な役目を 与えられているし、街は私がその作業を続けることを強く望んでいるらしい」
影はひとしきり乾いた咳をし、しばらく考え込んでいた。 私はポケットに入れていた両手を出 して、膝の上で擦り合わせた。 部屋は冷え込んでいた。
影は言った。 「前にも言ったことですが、ここにいる彼女が実は影で、壁の外にいた彼女が実 は本体だったという可能性は考えられませんか? おれはずっとそのことが気になっていて、 こ こに来る人たちに話を聞いて、切れ切れの情報を集め、おれなりに考えを巡らせました。 そして こういう仮説を得たんです。 ここは実は影の国なんじゃないかって。 影たちが集まり、この孤絶 した街の中でみんなで身を寄せ合い、息を凝らすように暮らしているんじゃないかって」
「でももし君が言うように、ここが影たちの国であるなら、 なぜ本体である私が街に入り、影で ある君がここに閉じ込められて死にかけているんだ? 逆なら話はわかるけれど」
部
1
147 -
第