Created on October 16, 2023 by vansw
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ていた。その優美な像が徐々に薄らぎ、すっかり消えて、無が残された空白を埋めてしまうまで。 家に向かう川沿いの道を私が一人で歩くとき、夜啼鳥が孤独な夜の歌をうたい、 中州の川柳が それに合わせるように細やかに枝を揺らした。いつもより川の水音が大きかった。 春が巡ってき たのだ。
その夜遅く、私とイエロー・サブマリンの少年は、私の意識のいちばん底にある暗い小部屋で 顔を合わせた。私たちは小さな机を挟んで座り、机の上ではいつものように小さなロウソクが燃 えていた。私たちはしばらくの間、そのロウソクの炎を沈黙のうちに見つめていた。私たちの無 音の呼吸に合わせて、 その炎は小さく揺らいだ。
「それで、じゅうぶん考えられたのですね?」
私は背いた。
「迷いのようなものはありませんね?」
「ないと思う」と私は言った。ないと思う。
少年は言った。「それではここで、 あなたとおわかれすることになります」
「もうきみに会うこともないのだろうね?」
「そうかもしれません。 ぼくらが顔を合わせることは二度とないかもしれません。 でも、ぼくに はわからないのです。 誰になにが断言できるでしょうか?」
私はイエロー・サブマリンのヨットパーカを着た少年をもう一度じっくりと眺めた。少年は眼 鏡をはずし、指先で瞼を軽く押さえ、それからまた眼鏡をかけた。そうして眼鏡をかけ直す度に、
653 第三部