Created on October 16, 2023 by vansw

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心は空を飛ぶ鳥と同じです。 高い壁もあなたの心の羽ばたきを妨げることはできません。前のと きのように、わざわざあの溜まりまで行って、そこに身を投じるような必要もありません。 そし てあなたの分身が、そのあなたの勇気ある落下を、外の世界でしっかり受け止めてくれることを、 心の底から信じればいいのです」


私は静かに首を振った。 そして何度か大きく呼吸をした。いったい何をどう言えばいいのだろ う? 言葉は浮かんでこなかった。 私は自分が今置かれている状況を、 まだ十分呑み込むことが できなかった。


私の意識と私の心との間には深い溝があった。 私の心はあるときには春の野原に出た若い兎で あり、またあるときには自由に空を飛びゆく鳥になる。 でも私にはまだ自分の心を制御すること ができない。そう、心とは捉えがたいものであり、 捉えがたいものが心なのだ。


「考えるための時間が少し必要だと思う」、私はようやくそう口にした。


「もちろんです。 考えてください」と少年は私の目をじっとのぞき込みながら言った。 「よくよ く考えてください。 ご存じのように、ここには考える時間はたくさんあります。逆説的な言い方 になりますが、 時間が存在しないぶん、時間は無限にあるのです」


そしてそこでロウソクの炎はふらりと揺らいで消え、深い暗闇が降りた。


649 第三部