Created on October 16, 2023 by vansw
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「はい、ぼくは〈夢読み〉としてあなたのあとを継承することになります。 どうかぼくのことは 心配しないでください。 前にも言ったように、古い夢を読み続けることが、ぼくに与えられた天 職なのです。 ぼくはここ以外の世界では、うまく生きていくことができません。 それはなにより 動かしがたい事実です」
少年の声は確信に満ちていた。
「しかしある日突然 <夢読み〉がぼくからきみに代わって、街はそれをすんなり受け入れてくれ るだろうか? だって、 きみはこの街に滞在する資格を与えられていないのだから」
「いいえ、心配はいりません。 ぼくがこの街を必要としているように、街もまたぼくを必要とす るようになっています。 <夢読み〉の存在なしにこの街は成り立たないからです。 彼らがぼくを 追放するようなことはあり得ません。街は、 そしてその壁は、ぼくに合わせて微妙に形を変化さ せていくことでしょう」
「きみにはその確信がある?」
少年はきっぱりと肯いた。
私は言った。「しかし、もし仮にぼくがここを立ち去ることを望んだとして、具体的にどのよ うにすればそれが可能になるのだろう? この高い壁に厳重に囲まれた街から出て行くことは、 決して簡単じゃないはずだ」
「そう心に望みさえすればいいのです」と少年は静かな声で私に告げた。「この部屋のこの短い ロウソクが消える前にそう心に望み、そのまま一息で炎を吹き消せばいいのです。 力強いひと吹 きで。そうすれば次の瞬間、あなたはもう外の世界に移っています。 簡単なことです。 あなたの
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