Created on October 16, 2023 by vansw
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そうですね? そして今度はあなた自身がぼくをあとに残して、この街から立ち去ることになり ます。そしてあなたはぼくから離れ、壁の外にいるあなたの影ともう一度ひとつになるのです」 頭を整理するための時間を私は必要とした。 私は少年に質問した。
「しかしそんなことが可能なのだろうか? もう一度自分の影と一緒になるなんて」
「ええ、可能です。もしあなたが心からそれを望むなら」
「しかしぼくには知りようがないんだ。 ぼくの影が今どこにいて、何をしているのかを。だいい ち彼はぼくと別れて、外の世界で一人でうまく生き延びていくことができたのだろうか?」
小さなロウソクの炎を間にはさんで、少年は私に静かに告げた。 「大丈夫です。 心配はいりま せん。あなたの影は外の世界で無事に、しっかり生きています。 そして立派にあなたの代わりを 務めています」
私は言葉をしばらくのあいだ失い、少年の顔を黙ってじっと見ていた。 それからやっと言った。 「きみは外の世界で、 ぼくの影に会ったことがあるの?」
「何度も」と少年は短く青いて言った。
少年の発言は私を驚かせ、困惑させた。彼が外の世界で私の影に何度も会っていた?
「ええ、あなたの影はあちら側で元気に暮らしています」
私は言った。そしてぼくはもう一度、その影と一体になることを求めている」
「そうです。あなたの心は新しい動きを求め、必要としているのです。でもあなたの意識はまだ
そのことをじゅうぶん把握してはいません。 人の心というのは、そう簡単には捉えがたいもので すから」
645 第三部