Created on October 16, 2023 by vansw
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「そのとき?」
少年は両方の手のひらを広げて上に向けた。 天井から正しい言葉が降ってくるのを待ち受ける みたいに。そして言った。 「あなたがここを立ち去るときです」
「ぼくがここを立ち去る?」
「ええ、あなたもそのことは心に感じ取っているはずです」とイエロー・サブマリンのヨットパ ーカを着た小柄な少年は言った。
それは私の内側にいる活発な兎と関係したことなのだろうか?
「ええ、 そうです。 それはあなたの内側にいる兎が、 あなたに身をもって告げていることです」 少年は私の心を読んで言った。
「ぼくがこの街から立ち去ることを?」
「ええ、そうです。 あなたの心はこの街を立ち去ることを求めています。 というか、ここを去る ことを必要としています。 少し前からぼくはそのことに薄々気がついていました。 そしてその心 の動静を注意して見守っていました」
そしゃく
私は少年の言ったことを自分なりに咀嚼した。
「しかしぼく自身には、その動きの意味がまだ理解できていない。そういうことかな?」
少年は軽く首を傾げた。「はい。心と意識とはべつのところにあるものですから」
私は黙って少年の顔を見ていた。
「ぼくはこの街を立ち去ることになる?」と私は尋ねた。
少年は背いた。「ええ、そうです。 あなたはかつて、あなたの影を壁の外に逃がしてやった。
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