Created on October 16, 2023 by vansw

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イエロー・サブマリンの少年と差し向かいで、 その椰子の木の話をしてからしばらくして、自 分の中で何か微妙な変化が起こりつつあることに、私は気づかないわけにはいかなかった。 私の 身体にはうまく説明できない違和感のようなものが生じていた。 喉の奥に堅く小さな空気の塊の ようなものがあり、どうやってもそれを追いやることができなかった。 何かを呑み込もうとする たびに、それは私に軽い苛立ちをもたらした。軽い耳鳴りのようなものもあった。その結果、こ れまでごく自然に円滑におこなわれていた日常の行為が、総じてどこかしらぎくしゃくしたもの


になった。


そのようなこれまでには見られなかった現象が、季節の移り変わりによってもたらされたもの なのか、あるいは私がイエロー・サブマリンの少年と一体になったことに起因するものなのか、 それとも他の何かの要因によってつくり出されたものなのか、判断がつかなかった。


その違和感を、いったいどう表現すればいいのだろう? あえて言うなら心が、自分の意思と はまったく異なった方向に勝手に進もうとしているような気がしてならないのだ。私の心は私の 意思に反して、若い兎が初めて春の野原に出たときのように、説明のつかない、予測のできない


三部


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