Created on October 16, 2023 by vansw
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「つまりぼくらはこの街に留まっていれば、いつまでも虚空に浮かんでいることができる?」
「理論的にはそうなります」
私は言った。「とはいえ、何かの拍子に再び時間が動き始めれば、ぼくらはその高みから落下 することになる。 そしてそれは致命的な落下となるかもしれない」
「おそらく」とイエロー・サブマリンの少年はあっさり言った。
「つまりぼくらはその存在を保つためには、街から離れることはできない。そういうことなのか な?」
「落下を防ぐ方法はおそらく見つからないでしょう」と少年は言った。 「しかしそれを致命的で なくするための方法は、なくはありません」
「たとえばどんな?」
「信じることです」
「何を信じるんだろう?」
「誰かが地面であなたを受け止めてくれることをです。 心の底からそれを信じることです。 留保 なく、まったく無条件で」
私はその情景を頭に思い浮かべた。 頑強な両腕を持つ誰かが椰子の木の下で待ち受けていて、 私の落下をしっかり受け止めてくれる。 でもそれが誰なのか、顔が見えない。おそらくどこにも 存在しない架空の誰かなのだろう。私は少年に尋ねた。
「きみにはそういう人はいるのかな? きみを受け止めてくれる人が」
少年は首をきっぱり横に振った。 「いいえ、ぼくにはそういう人はいません。少なくとも生き
639 第三部