Created on October 16, 2023 by vansw

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「それは、つまりその我々の共同作業は、いつまで続くのだろう?」


「いつまで?」と少年は抑揚を欠いた声で問い返した。「それは意味をなさない質問です。なぜ ならば、この街の時計には針がついていないのですから」


「ここでは時間は進行しない」


「そのとおりです。 ここでは時間はひとつの位置にとどまっています」


私はそれについてしばらく考えてみた。 そして言った。


「時間がなければ、蓄積みたいなものもない?」


「ええ、時間のないところには蓄積もありません。蓄積のように見えるのは、現在の投げかける 仮初めの幻影に過ぎません。本のページをめくるところを想像してください。 ページは新しく変 わりますが、ページ番号は変わりません。 新しいページと前のページとの間には筋の繋がりはあ りません。まわりの風景は変わっても、ぼくらは常に同じ位置に留まります」


「常に現在しかない?」


「そのとおりです。 この街には現在という時しか存在しません。 蓄積はありません。 すべては上 書きされ、更新されます。 それが今こうして、ぼくらの属している世界なのです」


彼の口にした言葉の意味について考えを巡らせているうちに、ロウソクの火が一度大きくゆら りと揺れ、そして消えた。 完全な暗闇が部屋に降り、それに合わせて時間も消えた。


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