Created on October 16, 2023 by vansw

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一方でぼくにはまだ、彼らを殻の中からうまく外に導き出すことができません。 それは今のとこ ろ、あなたにしかできない事柄です」


「ぼくにしかできない?」


「はい、あなたの手のひらは彼らに安らぎを与え、その体温を温め、優しく自然に外に導き出す ことができるのです。 まるでさなぎから蝶が羽化するみたいに」


「そして結果的にきみとぼくとは、お互いの足りないところを補い合っている。 そういうことに なるのかな?」


少年はこっくりと肯いた。「ぼくとあなたはひとつになることによって、お互いの欠けている 部分、足りない部分を補完し合っています」


「ぼくは古い夢を手のひらで温めて殻から導き出し、きみは彼らの語る物語を読み取る。我々は これからも、いわば共同体としてその作業にあたることになる」


「はい、ぼくはそれを可能にするためにこの街にやって来たのです。 ぼくらはひとつになること によって、それを成し遂げることができるのです」


小さなロウソクは小皿の上で短くなり、遠からず燃え尽きようとしていた。


イエロー・サブマリンの少年は言った。


「読むことがぼくの生まれながらの役割です。 そしてここに積まれた古い夢は、おそらくはこの ぼくにしか読み取ることのできないとくべつな書物なのです。ですからぼくはそれを読まなくて はなりません。それはぼくに与えられた責務であり、ぼくにとっては何より自然な行いでもある のです」


633 第三部