Created on October 16, 2023 by vansw

Tags: No tags

632


「はい、このとくべつな場所を訪れれば、ぼくらはこうして顔を合わせて対話することができま す。この小さなロウソクが燃え尽きるまでのあいだ」


私は肯いた。そして言った。


「それはよかった。 きみともう一度話をしなくてはならないと思っていたから」


「そうですね。 ぼくらのあいだには、話し合うべき事柄がいくつかあると思います。 言葉はどこ までも言葉でしかありませんが」


私はロウソクに目をやり、その長さを確かめ、一息おいてから言った。


「それで・・・・・・きみは今夜あの図書館で、ほくの代わりに古い夢を読んでくれたんだね。全部で五 つの夢を」


少年はまっすぐ私の目をのぞき込んだ。 そして言った。「ええ、そうです。 あなたの代わりに 古い夢を読みました。 あなたの普段のお仕事を勝手に横取りしたみたいで、気を悪くされたので なければいいのですが」


私は何度か首を振った。 「いや、気を悪くなんてしないさ。むしろありがたく思っているくら いだ。ぼくは今までずっと、古い夢たちを呼び出して身内を通過させながら、彼らの語る話をほ んの一部しか理解できなかった。まるで外国語で語られる話を聞いているみたいに」


イエロー・サブマリンの少年は黙って私の目を見ていた。


「でも、きみには彼らの語ることが理解できるんだね?」


「はい、ぼくには彼らの語る言葉がよく理解できます。 彼らの話の持つ意味合いは、ぼくの内側 をひとつひとつくっきりと通過していきます。 本の活字をたどるみたいに明らかにしかしその


632