Created on October 16, 2023 by vansw
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と蓄積しているのだろう。 私はただ手のひらで古い夢を優しく温め、彼らを殻の外に導き出して いるだけだ。
そしてやがてひとつの夢が自らをそっくり語り終え、安らかに解放されていった。それはほん のりと宙に浮かび、 そして音もなく消滅していった。 私の手には空っぽになった夢の殻だけが残 された。
はかど
「今日は仕事がずいぶん早く捗っている」と少女は向かいの席から私の目をのぞき込みながら言 った。とても感心したように。
私はただ背いた。私の口から言葉は出てこなかった。
「夢読みの作業に、 あなたが習熟してきたのでしょう」と少女は言って、優しく微笑んだ。 「そ れはなにより喜ばしいこと。この街にとっても、あなたにとっても、そして私にとっても」 「よかった」と私は言った。 よかった、と私の内側のイエロー・サブマリンの少年も囁いた。少 なくともそのような囁きが微かに聞こえたような気がした。 まるで洞窟の奥ののように。
しんちょく
私たちはその夜、全部で五つの古い夢を読み通した。 これまでは二つか、せいぜい多くて三つ しか読み取れなかったわけだから、それは私にとって大きな進捗と言えたし、そのことは少女を 幸福な気持ちにさせたようだった。 そしてその少女の晴れやかな笑顔は、言うまでもなく私を幸 福な気持ちにさせた。
図書館を閉めた後、私は以前と同じように少女を彼女の住まいまで歩いて送った。川沿いの道 の敷石を打つ彼女の靴音は、いつもより心なしか軽く楽しげに聞こえた。 私は並んで歩きながら
629 第三部