Created on October 16, 2023 by vansw

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そのことは私を少なからず不安な気持ちにさせた。


彼女はいつものように、私のために温かい緑色の薬草茶を作ってくれた。 私は時間をかけてそ のカップを飲み干し、気持ちを少しずつ落ち着かせた。 室内を静かに動き回って、必要な作業を てきぱきとこなしていく彼女の優美な動作を眺め、彼女と二人きりで過ごせるささやかな時間を いつものとおり心地よく味わった。そこには何ひとつ変更されたところはなかった。その穏やか な静けさ、温かな心地よさ・・・・・・今日はあくまで昨日の繰り返しであり、明日は今日の繰り返しで あることだろう。


やかん


そのことは私をいくらか安堵させた。私のまわりにあるものは、見たところ何ひとつ変化を遂 げていない。そこにある空気はいつもと同じ空気であり、光はいつもと同じ光だ。薬罐が沸騰し 始める音、板張りの床の微かな軋み、なたね油の匂い。 すべてのものごとはあるべき場所に正し く収まっている。 その調和を乱すものはない。


薬草茶を飲み終えると、私と少女はいつものように無言のうちに奥にある書庫に移り、古い夢 を読み取る作業に取り掛かった。 私は古い机の前に座り、 彼女が運んできたひとつの古い夢を両 方の手のひらで覆い、優しく注意深くその夢を導き出した。 私は長い期間にわたってその作業に 従事し、習熟してきたから、彼らの警戒心をうまく解きほどくことができるようになっていた。 夢は自分の方からそっと静かに、殻の外に抜け出してきた。 夢は仄かな明かりを発し、その温か みが私の手のひらに感じられた。


ほの


彼らがリラックスした心地よい状態にあることを、私は感じ取ることができた。 彼らは安心し、


627 第三部