Created on October 16, 2023 by vansw

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なのに私は自分の身体や意識にまったく違和感を覚えないでいる。 私は堅く目をつむり、その暗 闇の中で自分の意識をできるだけ深く探ってみた。 大きく呼吸をし、両腕と両脚を関節が悲鳴を 上げるほどしっかり強く伸ばしてみた。 グラスで水を何杯か飲み、長い放尿をした。しかしどこ から見ても、今朝の私には昨日の私と違うところは何ひとつなかった。 あの少年は本当に私と一 体化することができたのだろうか? ひょっとして私は、生々しい夢を見ていただけではないだ ろうか?


いや、そんなわけはない。 彼に左耳を噛まれたときの激しい痛みを、私はまざまざと記憶して いるし(その痛みにもかかわらず、私は即座に眠りに落ちてしまったわけだが)、彼との会話を 最初から最後まで、一語一語詳細に再現することができる。 それが夢であるはずがない。そこま で明瞭な夢はどう考えてもあり得ない。


しかし、と私は思う、現実はおそらくひとつだけではない。現実とはいくつかの選択肢の中か ら、自分で選び取らなくてはならないものなのだ。


冬も終わりに近い、きれいに晴れ上がった一日だった。 夕方までの午後の時間を、私は鎧戸を 下ろして薄暗くした部屋にこもり、自分という存在についてあてもなく考えを巡らせながら過ご した。


もしイエロー・サブマリンの少年と私とが本当に「一体化」したのであれば、私という人間に は その感じ方や考えのあり方には 何かしらの変化が見受けられるはずだ。なにしろ別の 人格が私の中に新たに入り込んできたのだから。 しかしどれだけ丹念に、注意深く見つめ直して


623 第三部