Created on October 15, 2023 by vansw

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少年は言った。 「いいえ、そういうことではありません。 あなたは今までどおり古い夢を、 あ の図書館の奥で読み続けます。 だってぼくはあなたであり、 あなたはぼくなのですから。 ぼくの 力はあなた自身の力となります。 水と水が混じり合うように。 ぼくとひとつになることによって、 あなたの人格や日常が変化するようなことは決して起こりません。 あなたの自由が束縛されるよ うなこともありません」


私はなんとか少しでも頭を整理しようと試みた。 そして心の中で彼に尋ねた。


なぜきみは古い夢がそんなに読みたいのだろう?


「なぜならば、古い夢を読むこと、それがぼくの天職だからです。 ぼくは〈夢読み〉になるため にこの世に生を受けたのです。 しかし 〈夢読み〉になるための方法が、ぼくの属する世界ではど うしても見つけられませんでした。 それでもこうしてようやくあなたに巡り会うことができまし た。どうかぼくの言うことを信じて、ぼくとひとつになってください。 そしてぼくがこの街で暮 らし続けられるようにしてください。 ぼくには 〈夢読み〉としてのあなたを助けることができま す。 もしそう望むなら、 あなたはいつまでも夜ごとあの図書館に通い、あの少女と会い続けるこ とができます」


もし私がそう望むなら。


しかし具体的に、どうすればきみと 「一体化」することができるのだろう?


「とても簡単なことです。 あなたの左側の耳たぶをぼくに噛ませてください。そうすればぼくら はひとつになれます」


ということは、どこかで私の右側の耳たぶを噛んだのはきみなんだね?


619 第三部