Created on August 29, 2023 by vansw

Tags: No tags

139


気の毒だけれど、あなたはこの街での、影を持たない暮らしに慣れていく。 しばらくすれば影の


ことは忘れてしまうでしょう。他のみんなと同じように」


私は林檎菓子を一切口に入れ、林檎の香りを味わう。 口の中に甘酸っぱい新鮮な味わいが広 がっていく。 なんて美味い林檎だろうと私は感心する。 考えてみればこの街にやって来てから、 何かを食べて「美味い」という感覚を持ったのは初めてかもしれない。


君の瞳にストーブの光がきらりと反映する。 いや、それは反映ではなく、君自身の中に内在し ている光だろうか。


「なにも心配することはないわ」と君は言う。「あなたはここに来てから、ずいぶん立派に仕事 を果たしているもの。 みんなが感心するくらい。 これからもきっとうまくいくわ」


私は肯く。


が感心する


139 第一部