Created on August 29, 2023 by vansw
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気の毒だけれど、あなたはこの街での、影を持たない暮らしに慣れていく。 しばらくすれば影の
ことは忘れてしまうでしょう。他のみんなと同じように」
私は林檎菓子を一切口に入れ、林檎の香りを味わう。 口の中に甘酸っぱい新鮮な味わいが広 がっていく。 なんて美味い林檎だろうと私は感心する。 考えてみればこの街にやって来てから、 何かを食べて「美味い」という感覚を持ったのは初めてかもしれない。
君の瞳にストーブの光がきらりと反映する。 いや、それは反映ではなく、君自身の中に内在し ている光だろうか。
「なにも心配することはないわ」と君は言う。「あなたはここに来てから、ずいぶん立派に仕事 を果たしているもの。 みんなが感心するくらい。 これからもきっとうまくいくわ」
私は肯く。
が感心する
139 第一部