Created on October 15, 2023 by vansw
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なかった。 どちらもうまく説明のつかない異例の出来事だ。 そのふたつが、なぜかほとんど時を 同じくして持ち上がったのだ。
その夜、私は何度も目を覚ました。 珍しいことだ。この街に暮らすようになって以来、 夜中に 目を覚ますようなことはまずなかった。 一度ベッドに潜り込んでしまえば、何ものにも心を乱さ れることなく朝まで、 身体と心をゆっくり休めることができた。 しかしその夜は、少年の登場す る夢と、耳たぶの疼きのせいで、うまく眠ることができなかった。 そして切れ切れに訪れる眠り も、決して心安まるものではなかった。 私は何度も枕の位置を直し、乱れた掛け布団を整え、身 体にかいた汗をタオルで拭かなくてはならなかった。 頻繁に寝返りを打ち、不安定なまどろみの うちに夜明けを迎えた。
何かが始まろうとしているのだろうか?
私は何かが始まることを望んではいなかった。私が必要とするのは、何も始まらないことだ。 このままの状態が終わりなく永遠に続くことだ。しかしいったん始まった変化は――それがいか なる種類のものであれもう止めることができないのではないか、そんな予感があった。
翌日、同じ時刻に――おそらく同じ時刻だと思うが、時計が存在しないこの街では正確なとこ ろはわからない私は橋の前を通りかかった。 しかしその日、イエロー・サブマリンの少年の 姿はなかった。 そして彼の不在は私の心をより深く混乱させた。
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