Created on October 15, 2023 by vansw

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607


触がまだそこに残っていて、それが痛みを抑えてくれるようだった。私がそう言うと、彼女は嬉


しそうに微笑んだ。


「よかった」と彼女は言った。 「お仕事を終えたら、もう一度塗りましょう」


私はあらためて机に向かい、意識を集中して古い夢を読み始めた。 机の上に置かれたなたね油 のランプの炎がゆらりと揺れた。しかし私たちの影が壁に映ることはない。


この街では誰ひとり影法師を持ち合わせていないのだ。もちろんこの私も。


607 第三部