Created on August 29, 2023 by vansw

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君はそれを耳にして、少しばかり顔を曇らせる。そして言う。「気の毒だとは思うけれど、仕 方のないことね。暗い心は遅かれ早かれ死んで、滅びていくのよ。 諦めなくては」


「君は自分の影のことを覚えている?」


君は細い指先でそっと自分の額をさする。まるで物語の筋を辿っているみたいに。


「前にも言ったように、まだ幼い頃に影を引き剥がされて、それ以来一度も会っていない。だか ら自分の影を持つというのがどういうことか、私にはわからないの。 それは・・なくしてしまう と不便なものなの?」


「よくわからないな。 今のところ影と引き離されていても、格別困ったことがあるわけじゃない。 でももし影が永遠に失われてしまったら、 それと一緒に他の大事な何かも失われてしまうんじゃ ないか――そんな気がする」


君は私の目をのぞき込む。 「他の大事な何かって、たとえばどんなもの?」


「うまく言えない。影を永遠に失うのが具体的にどういうことなのか、それがつかめないんだ」 君はストーブの扉を開け、薪を何本か足す。 ひとしきりふいごを使って火を活性化させる。 「それで、あなたの影はあなたに何かを求めているの?」



「私ともう一度一緒になりたがっている。そうすれば影は元の生命力を取り戻すことができる」 「でももし影と再び一緒になったら、あなたはこの街に留まることはできない」


「そのとおりだ」 第


頭に皿を載せたまま空を見上げることはできない、と門衛は私に告げた。


「だとしたら、やはり影を諦めるしかないんじゃないかしら」と君は静かな声で言う。「影には


たど


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