Created on October 15, 2023 by vansw
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上の色鮮やかな想いあるのはただそれだけだ。 もうすぐぼくらの頭上には少しずつ星が瞬き 始めるだろうが、 星にも名前はない。
きみはまっすぐ私の顔を見る。 どこまでも生真面目な目で、まるで深く澄んだ泉の底をのぞき 込むみたいに。そして打ち明けるように囁く。 手を握り合ったまま。
「ねえ、わかった? わたしたちは二人とも、ただの誰かの影に過ぎないのよ」
そして私ははっと覚醒する。あるいはまぎれもない現実の台地に引き戻される。 彼女の声がま
だ鮮やかに私の耳に残っている。
ねえ、わかった? わたしたちは二人とも、ただの誰かの影に過ぎないのよ。
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