Created on October 15, 2023 by vansw

Tags: No tags

598


上の色鮮やかな想いあるのはただそれだけだ。 もうすぐぼくらの頭上には少しずつ星が瞬き 始めるだろうが、 星にも名前はない。


きみはまっすぐ私の顔を見る。 どこまでも生真面目な目で、まるで深く澄んだ泉の底をのぞき 込むみたいに。そして打ち明けるように囁く。 手を握り合ったまま。


「ねえ、わかった? わたしたちは二人とも、ただの誰かの影に過ぎないのよ」


そして私ははっと覚醒する。あるいはまぎれもない現実の台地に引き戻される。 彼女の声がま


だ鮮やかに私の耳に残っている。


ねえ、わかった? わたしたちは二人とも、ただの誰かの影に過ぎないのよ。


598