Created on October 15, 2023 by vansw

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にとっても彼女にとっても、これ以上あえて時間を遡る必要はない。


私の記憶と、私の現実とがそこで重なり合い、ひとつに繋がって混じり合う。私はその様子を 目で追っている。


きみは夏草の中に腰を下ろし、何も言わず空を見上げる。 小さな鳥が二羽並んでそこを素速く 横切る。 きみの隣に腰を下ろすと、なんだか不思議な気持ちになる。 まるで数千本の目に見えな い糸が、きみの身体とぼくの心を細かく結び合わせているみたいだ。


きみに何かを語りかけようとするが、言葉は出てこない。 舌が蜂に刺され、膨らんで麻痺して しまったみたいに。 この現実の端っこの世界にあって、私の身体と心とはまだひとつに結びつい ていない。


でも私にはわかっている。私はここにこうして、いつまでも留まり続ける。 ここからもう先に も進まず、また後戻りもしない。時計の針は止まり、あるいは針そのものが消失し、時間はここ でぴたりと停止する。やがて私の舌は正常な動きを回復し、正しい言葉をひとつまたひとつと、 見つけ出していくことだろう。


私は目を閉じる。その中間的な暗がりの中にしばし留まってから、もう一度目を開ける。間違 えて何かを壊してしまわないように、静かに注意深く。 そしてまわりをあらためて見回し、 その 世界がまだ消え失せていないことを確認する。 涼しげな水音が耳に届き、強い夏草の匂いがする。 無数の蝉たちが声の限りに何かを世界に呼びかけている。 きみの赤いサンダルと、私の白いスニ