Created on October 15, 2023 by vansw
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はりつい
緑色の素敵な句読点となっていた。
彼女は先に立って、私の前を歩き続けた。 私がそこにいることを微塵も疑わないように、一度 も背後を振り返らず。 流れの中で歩を運ぶこと、彼女はただそれだけに意識を集中しているみた いだった。ときどき小さな声で何かの歌を切れ切れに口ずさみながら、彼女は歩いた (聞き覚え のない歌だ)。
私たちの裸足の若い足は、山から流れてくる冷ややかに澄んだ水を静かにかき分けていった。 私は彼女のすぐ後ろをついて歩きながら、そのまっすぐな黒い髪が、肩先で振り子のように左右 に揺れるのを、目を細めて見つめていた――眩しく光る精緻な細工ものでも眺めるみたいに。 ま るで催眠術でもかけられたかのように、その生き生きとした美しく細やかな動きから、目を逸ら すことができなかった。
やがて彼女は、何かを思いついたみたいに唐突に立ち止まり、まわりを見回した。 そして水か らあがり、裸足のまま白い砂州の上を歩いた。それから淡い緑色のワンピースの裾を丁寧に折り 畳むようにして、夏草に囲まれた開けた場所に腰を下ろした。私も黙って同じように、彼女の隣 に並んで座った。緑色のバッタが一匹、 すぐそばの草むらから慌てて飛び上がり、鋭い羽音を立 てて勢いよくどこかに飛んでいった。私たちはその行方をしばらく目で追っていた。
そう、そのようにして私たち二人はその地点で立ち止まり、 十七歳と十六歳の世界に留まった のだ。川の流れに囲まれた白い砂州の、緑の夏草の間に。もうここより先に進むことはない。私
595 第二部