Created on October 15, 2023 by vansw
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して、真夏の午後の強い日差しを防いでいた。 彼らの身につけている衣服や、かぶっている帽子 は、どことなく古っぽく奇妙なものに見えたが、それは私の気のせいかもしれない。眩しい陽光 の中で、遠くから見上げていただけだから。
一度だけ小さな男の子が、 コンクリートの欄干から身を乗り出すようにして、下を歩いている 私に向かって、大きく口を開けて何かを呼びかけたが、何を言っているのか聞き取れなかった。 彼は何かしら大事なことを私に伝えようとしているようにも見えたが、その声はほんの微かにし か届かなかった。そのうちに母親らしき太った女性が背後に姿を見せ、叫び続けるその子を欄干 から無理に引き剥がすようにして連れて行った。彼女はこちらにはまったく視線を向けなかった。 私がそこに存在していることなど目に入らないように。その小さな男の子以外に、川の中を裸足 で歩いて行く私に注意を向ける人はいなかった。」
ところどころで立ち止まって、自分のそのときの状態を細かく点検しながら、 川の中を歩き続 けた。間違いない。 私の肉体はその川を遡るにつれて少しずつ、しかし確実に若返っていった。 私は二十代をじわじわと遡り、二十歳という分岐点に近づいていった。腕をさすってみると、肌 はすべすべとしてますます滑らかになっていた。 長年にわたる読書によって痛めつけられていた 視野は、霧が晴れるようにクリアになり、身体のあちこちにこびりついた贅肉が少しずつそぎ落 とされていた。日頃から体重の増加にはかなり気を配ってきたつもりだが、それでも自分でも気 づかないうちに、身体の各所に余分な肉が付着していたことを思い知らされた。頭に手をやると、 髪は明らかにより太く、より濃密になっていった。そして今では、私の足腰は健康な活力に満ち ており、どれだけ歩いても疲れを覚えなかった。
593 第二部