Created on October 15, 2023 by vansw

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一歩一歩足を踏み出すごとに私は変化し続けている。それは錯覚ではない。 思い違いでもな


い。 その確かな変化の律動を、全身に実感することができた。


それがどのような種類の変化なのか、最初のうちはよくわからなかった。 しかし自分の顔に手 をあててみて、それが明らかに変貌を遂げていることに気づいた。 顔の肌はいつになく滑らかで、 顎の下側についていた肉のたるみもなくなり、顔全体の輪郭が引き締まっているようだった。 手 脚に目をやると、皮膚が健康な張りを取り戻していることがわかった。 もずいぶん少なくなっ ていた。そこについていたいくつかの傷跡も、おおかたどこかに消えてしまっていた。


間違いない。 前に比べて前といっても僅か数時間前のことなのだが――私の皮膚は明らか に若返っている。そして身体もまるでおもりが取り除かれたみたいに軽くなっていた。肩甲骨の 奥の方で長いあいだ疼いていた執拗なこりもそっくり消えて、肩が滑らかに軽快に動くようにな っていた。肺に吸い込む空気さえ、より新鮮で活力に満ちたものに感じられた。 耳に届く様々な 自然の音も、より生き生きと鮮やかなものになっていた。


鏡があればいいのだが、と私は思った。 鏡があれば、自分の顔の変化が具体的に見て取れるは ずだ。 鏡に映った私の顔は、若い当時の顔に戻っていることだろう。おそらくは二十代後半頃の 顔つきに。今より髪もふさふさとして、顎は細く、頬も少しそげている。健康で陰りがなく、 そ して(今から見ると) いくぶん愚かしく見えることだろう (おそらく実際に愚かしかったのだろ う)。でももちろん鏡なんて持ち合わせていない。


自分の身にいったい何ごとが持ち上がっているのか、当然のことながら私の理解力は事態の進 展についていくことができなかった。 とりあえず頭に浮かぶ仮説といえば、この川を上流に向か


591 第二部