Created on October 15, 2023 by vansw

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を避ければずっと川の中を歩いて移動することができる。 深いところでは小さな銀色の魚が群れ をつくっているのが見える。 時折、低く飛ぶとんびの影が黒く素速く川面をよぎる。 夏草の強い 匂いがあたりに満ちていた。


川には見覚えがあった。 子供の頃よく遊んだ川だ。魚とりをしたり、ただ水の感触を楽しんだ り。でもそこにいる私はもう子供ではない。四十代半ばを迎えた現在の私だ。私は一人でその川 の中を歩いていた。強い日差しは無帽の首筋をじりじりと焼いたが、汗はまったくかいていない し、喉の渇きも覚えなかった。 苔のついた石を踏んで足を滑らせたりしないように、足元に注意 深く目をやりながら、着実に歩を運んだ。急ぐことはない。 風が滑らかに川面を吹き抜けていっ た。遠くの地平線近くに真っ白な雲の塊が見えたが、頭上には青い空が遮るものひとつなく広が っていた。


私は上流に向けて、川の流れに逆らうかっこうで歩いていった。そのように歩き続けることに とくに目的はなく、どこか特定の場所に向かって進んでいるというのでもなさそうだ。 ただ水の 中を裸足で歩きたくて、まわりの懐かしい光景を目にしたくて、 こうして歩いているのだ。言う なれば、歩くという行為そのものが私のそのときの目的だった。


しかしそうして歩き続けるうちに、ふとあることに気づく。その川を上流に向けて遡りながら、 ほんの少しずつではあるけれど自分が変容を遂げているらしいことに。 意識の変化とか、認識や 視点の転換とか、そういう感覚的、 抽象的な変化ではない。目で見てわかる、 実際に手で触るこ とのできる具体的な変化だ。物理的な、おそらくは肉体的な変化だ。


私は肉体的に変化しつつあるのだ。


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