Created on October 13, 2023 by vansw

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の壁のようなものに。


そんな相手が自分の前に出現するのを、私はこれまで待っていたのだろうか? それが私に与


えられた新しい木箱なのだろうか?


言うまでもないことだが、私が彼女を求める気持ちは、 十七歳のときあの少女を求めた気持ち と同質のものではない。 その当時の圧倒的なまでの、焦点をひとつに絞って何かを焼き尽くすよ うな強い感情が身内に戻ってくることは、おそらくもう二度とあるまい(もし仮に戻ってきたと しても、今の私はもはやその熱量に耐えきれないだろう)。そのコーヒーショップの女性に対し て私が抱いている気持ちは、もっと広い範囲に及ぶものであり、より穏当で柔らかな衣に包まれ、 それなりの智恵と経験によって抑制されたものだった。そしてより長い時間性の中で把握される べきものだった。


そしてもうひとつの大事な事実私が求めているのは彼女のすべてではない。 彼女のすべて はおそらく、今手にしている小さな木箱には収まりきらないだろう。私はもう十七歳の少年では ない。その頃の私は世界中のあらゆる時間を手にしていた。 でも今は違う。私が手にしている時


つかみち


間は、その使い途の可能性は、かなり限られたものになっている。今の私が求めているのは、彼 女が身につけた防御壁の内側にあるはずの穏やかな温かみだった。 そしてその特殊な素材で作ら れた円型カップの奥に脈打っているはずの心臓の確かな鼓動だった。


それは、この今となって私があえて求めるには、ささやか過ぎるものなのだろうか? それと も多大に過ぎるものなのだろうか?


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