Created on October 13, 2023 by vansw
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それにだいたい、私はこれまでいったい何を待ってきたというのだ? 自分が何を待っている のか、それが正確に把握できていただろうか? 自分が何を待っているのか、 それが明らかにな るのをただ辛抱強く待っていた、というだけのことではなかったのか? ひとつの木箱の中に入 ったより小さな木箱、その箱の中に入ったもっと小さな箱。 際限なく精妙に連なっていく入れ子 細工。 箱はどんどん小さくなっていく――そしてまたその中心に収められているはずのものも。 それがまさに、私がこれまでの四十数年、送ってきた人生の実相ではないのだろうか?
いったいどこが出発点であったのか、 そして到達点と呼べるようなものがどこかに存在してい るのか、いないのか、考えれば考えるほど、判断がつかなくなっていった。いや、途方に暮れる、 というのが正しい表現だろう。 きりっと澄んだ冷ややかな月の光が、雪解け水を集めて賑やか な音を立てる川面を照らしていた。 世界にはいろんな種類の水がある。 そしてそれらはすべて上 から下へと流れていく。 自明のこととして、何の迷いもなく。 あるいは私は彼女を待っていたのかもしれない。
そんな思いがふと頭に浮かんだ。名前を持たない「コーヒーショップ」を一人で切り盛りし、 隙間のない特別な下着にぴったりと身を包み、周囲に潜む(とおぼしき) 仮説的なものごとから 自分を防御し、なぜかはわからないが性行為を受容することができない、 三十代半ばの一人の女 性を。
私は彼女に好意を抱いているし、彼女も私に好意を抱いている。そのことに間違いはない。私 たちはこの山に囲まれた小さな町で(おそらく) 互いを求め合っている。 しかしそれでも私たち は何かによって隔てられている硬い実質をそなえた何かによって。そう、たとえば高い煉瓦
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585 第二部