Created on October 13, 2023 by vansw
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ぼくの身体の一部はいつしかすっかり硬くなってしまう。 大理石でできたみっともない形の置物 みたいに。ぴったりとしたブルージーンズの中で、勃起したぼくの性器はひどく居心地が悪い。 早く通常の状態に戻さないことには、座席から立ち上がることもおぼつかないだろう。
でもそれはいったん硬直してしまうと、意志とは裏腹になかなか元通りに落ち着いてはくれな い。 いくら綱を引っ張っても、言うことを聞いてくれない元気いっぱいの大型犬のように。 「ねえ、何を考えているの」と彼女が私の耳元で囁いた。
私の意識は、今ここにある現実に引き戻される。 ここはコーヒーショップの二階にある、 彼女 のささやかな住居部分だ。私たちはソファの上で抱き合っている。彼女の身体はタイトな下着で 締めつけられ、〈仮説的なものごと〉から怠りなく防御されている。
「役に立てなくて悪いと思う」と彼女は言った。 「あなたのことは好きなの。だからできれば役 に立ちたいとは思う。本当よ。でもどうしてもそんな気持ちになれないの」
それに続く沈黙の中で、私はそのことについて考えを巡らせた。 そしてそこに生まれた自分の 考えを、私なりに一通り検証してみた。
「待っていてもかまわないかな?」と私は言った。
「待つって..... 私がそういう領域において積極的な気持ちになるのを待つということ?」
「積極的でなくてもかまわない」
「より受容的な気持ちになる、ということかしら」
私は肯いた。彼女はその提案について、しばらく真剣に考え込んでいた。そして顔を上げて言
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583 第二部