Created on August 29, 2023 by vansw
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ール隊を率いていた。部下は六人ほど、うちの一人は古参の下士官だった。私の隊は戦闘のおこ なわれている山中で偵察活動に従事していた。 季節はわからないが、とくに暑くも寒くもなかっ た。
まと
朝の早い時刻、山頂近くで、白衣を纏った一群の人々が歩いて行く姿を見かけた。人数は三十 名ほどだろう。隊は即座に戦闘の態勢をとったが、すぐにそんな必要のないことが判明した。 人々は武装をしていなかったし、その中には老人や女性や子供たちも混じっていたからだ。彼ら を止めて 「おまえたちは何ものなのか、どこに何をしにいくのか?」と尋問してもよかったのだ が、どうせ言葉は通じないだろうと思い、私はそれを諦めた (そう、私たちは遠く離れた異国で 戦闘行為をおこなっていたのだ)。
男女とも同じ白い衣を身に纏っていた。 一枚の白いシーツを身体にぐるぐる回して紐で留めた ような、粗末で単純な衣だ。 誰も履き物は履いていない。 宗教団体の信者たちのようにも見える。 病院から逃れてきた人たちのようにも見える。誰かに害を与えそうにはとても見えなかったが、 私たちは念のために彼らのあとについて様子を見届けることにした。
白衣の人々は急な坂を上っていった。誰ひとりとして口をきかなかった。 先頭に立っているの は、痩せた長身の老人だった。 長い白髪が肩にかかっている。みんなは彼のあとを黙々と歩いて いた。やがて彼らは山頂に出た。その右手は切り立った崖になっており、人々はそちらに向かっ た。そしてまず白髪の老人が崖から身を投げた。 何か言葉を発することもなく、迷いの色もなく、 ごく当たり前のことをするみたいに、両手を軽く広げて空中に身を投げたのだ。そして他の人々 も次々にそれにならった。 まるで鳥が空中に飛び立つときのように、何の躊躇もなく白衣の袖を
ちゅうちょ
ころも
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