Created on October 13, 2023 by vansw
578
彼女は軽く首を傾げ、目を細めてそれについて考えていた。それから言った。 「もしあなたさ えよければ、今日はここでピザの出前をとって、ビールでも飲まない? どちらかというとそん
な気分なんだけど」
「いいよ。ピザは悪くない」
「マルゲリータでいいかしら?」
「なんでも君の食べたいものを頼めばいい」
彼女は電話に登録された短縮番号を押して、馴れた様子でピザを注文した。 トッピングは三種 類のマッシュルーム。
「三十分で届く」と彼女は言った。 そして壁にかかった時計に目をやった。
ピザの到着を待つ三十分のあいだ、私と彼女はカウンターの席に並んで座り、自分たちが最近 読んだ本の話をした。 シングルモルトのグラスを傾けながら。
「私の暮らしている部屋を見に来る?」 と、 ピザを食べ終えたあとで彼女は言った。
「ここの二階にあるという部屋?」
「ええ、狭いし、天井は低いし、家具は安物だし、最高にぱっとしない部屋だけど、私はいちお うそこでささやかに生活している。もしよかったら」
「ぜひ見てみたいな」と私は言った。
彼女はピザの空き箱と食器を片付け、店の明かりを消した。 そして私の前に立ち、厨房の奥に ある狭い階段を上った。案内された二階の部屋は、彼女が言うほどひどいところには見えなかっ
578