Created on October 13, 2023 by vansw

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ことが少し気になったものですから、何度も確認してみたのですが、彼がそれを着ていかなかっ


たことに間違いないということです」


図書館での仕事を終え、駅前のコーヒーショップに着いたとき、時刻は六時半を少し回ってい た。 長い冬がそろそろ終わりに近づいており、日が暮れるのが前より目に見えて遅くなり、寒さ もいくぶん和らいでいた。凍りついた道ばたの雪の塊も、昼間の日差しに解かされて小さくなっ ていた。そしてそのような雪解けの水を集めた川は、目に見えて水量を増していた。


コーヒーショップのガラスのドアには、「閉店」の札がかかっており、窓のブラインドも閉じ られていた。 私はドアを押して開け、店の中に入った。 彼女はカウンターの椅子に一人で座って 本を読んでいた。 文庫本ではなく、厚みのある単行本だ。彼女はその本を閉じて、私に向かって 微笑みかけた。 本に挟まれた葉が、もう終わり近くまで読まれていることを示していた。


しおり


「何を読んでいるの?」と私はダッフルコートを脱いでコートラックに掛けながら尋ねた。 「「コレラの時代の愛」」と彼女は言った。


「ガルシア=マルケスが好きなの?」


「ええ、好きだと思う。作品のたいていは読んでいるから。中でもこの本がとくに好きなの。読 むのは二度目だけど。 あなたは?」


「昔読んだことがあるよ。 出版された頃に」と私は言った。


「私が好きなのはこういうところ」、 彼女は栞の挟んであったページを開き、その部分を読み上 げてくれた。


575 第二部