Created on October 13, 2023 by vansw
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その夜とても長い夢を見た。 あるいは夢に類するものを。
私は森の中の小道を一人で歩いていた。 重く曇った冬の午後で、白く固い雪がちらちらとあた りを舞っていた。自分が今どこにいるのか、私にはわからなかった。ただそこをあてもなく切々 と歩き続けていた。 何かを探し求めているようだが、何を探しているのか、それが自分でもわか らない。しかしそのことはとくに私を混乱させなかった。 自分が何を探しているにせよ、いった んそれが見つかれば、 何を探していたかそのときにわかるはずだった。
うっそうとした深い森で、 どこまで行っても樹木の太い幹しか見えなかった。 枯れ葉を踏みし める靴音が足元に鈍く響き、頭上高いところで鳥たちが呼び合う声が時折耳に届いたが、それ以 外に物音は聞こえない。 風も吹いていない。
やがて私は樹木の間を抜け、ぽっかりと開けた平らな場所に出た。 そこにはうち捨てられたよ うな古い小さな建物があった。 かつては山小屋として使われていたのかもしれない。しかし長い 歳月にわたって手入れを受けていないらしく、木製の屋根は斜めに傾いで、 柱は虫に食われて半 ば朽ちていた。私は危なっかしい三段の階段を踏みしめてポーチに上がり、色褪せた玄関の扉を
かし
第二部
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