Created on October 12, 2023 by vansw

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なってしまいます。またM**がちょっと変わった、普通ではない子供だということは、町の人 たちはみんな知っています。 そういう子供は予測のつかないことをするものだと人は考えます。 父はこの町では名前を知られた人間なので、警察もいちおう丁寧に応対してくれますが、それ以 上のことはしてくれません」


「何ごともなかったようにふらりと帰ってきてくれれば、それに勝ることはないのでしょうが」 と私は言った。


兄の方が言った。「ええ、両親もそのように言っています。しかし私たちとしては、ただおと なしく座ってM**の帰りを待っているわけにはいきません。社会的適応力みたいなものを持ち 合わせていない子です。 今頃どこでどうしているのかと思うと、心配でなりません」


「壁に囲まれた架空の街の話に戻りますが」と弟が口を挟んだ。 「弟は、そのあなたの街のどの ようなところにいちばん興味を抱いたと思われますか?」



私は答えに窮した。 いったいどのように答えればいいのだろう?


「それは私にもわかりません。 そういうことは、彼は何も語りませんでしたから。 ただきわめて 真剣にその街の地図作りに没頭していただけです。 でも私の個人的な感想を言わせていただけれ


ば、M**くんがその街に心を惹かれたのは、たぶんそこではあなたがたのおっしゃるところの、


社会的適応力みたいなものが必要とされなかったからではないでしょうか。 彼がその街でやるべ きことといえば、図書館に通って特殊な書物を読むことだけです。 それは考えてみれば、彼がこ の町で、この図書館で日々おこなっていたのと基本的に同じ作業です。 それ以外には何も求めら れていません。そしてその街では、その書物を読むことが重要な意味を持っています」


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555 第二部