Created on October 12, 2023 by vansw

Tags: No tags

552


ころに、M**はそれほど興味を惹かれたのでしょう? 弟はたしかに子易さんには親しんでい ました。 よく話もしていたようです。 しかし子易さんは小さい頃からM**のことをよくご存じ でしたし、あの子に目をかけ、何かとかわいがってくれました。 ですから彼になつくのはそれな りに理解できます。 何か気持ちが通じ合うところがあったのでしょう。 でもあなたは、子易さん が亡くなったあと東京から移ってこられて、図書館長職を新しく継がれたばかりです。 そんなあ なたのどこに弟は心を惹かれたのでしょうか」


「お父様にも先日お話ししたのですが、私はある人に架空の街の話をし、それを彼がたまたま耳 にしたようです」


「ええ、おおよそのことは父から聞きました。 M**はその架空の街の話に強い興味を持ち、そ の街の地図を描き起こしたということですね」


「ええ、そのとおりです」


弟が質問した。「それはつまり、あなたの想像の中で生み出された空想の街なのですね?」


「そのとおりです。 私がまだ若い頃、想像の中で作り上げた、実際には存在しない世界です」と 私は答えた。


「その地図はお持ちですか?」


「いいえ、今ここにはありません。M**くんが持っていきました」、 それは嘘だ。 その地図は 私の家の机の抽斗にしまってある。 でもなぜか私は彼らにその地図を見せる気持ちにはなれなか った。


兄弟は顔を見合わせた。


552