Created on August 29, 2023 by vansw

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どく苦しかったし、ふたつめの角はどうやっても曲がれなかった。 そのさきになにがあるのか わからなくて、それがとても怖かったから。 いや違う、そうじゃないな…本当のことを言え ば、そのさきになにがあるかがわかっているから、その角を曲がることができなかったのです。 いずれにせよ、こんな状態ではとてもとてもあなたに会うことはできないし、こんな状態の わたしの姿をあなたに見せることもできません。 わたしの生命力は(というか、生命力みたい なものはしぼんだ風船の空気みたいにするすると外に抜け出ていきます。そして今のわたし にはその流出をくい止めることができません。 わたしの手は二本しかないし、指は十本しかな くて、まったくの話、そんなものではとても間にあわないのです。 こんなときどうすればいい のか、自分でもわかりません。さあ、どうすればいいのだろう?


でもどうか信じてください。 わたしが前に公園のベンチであなたに言ったのはすべてほんと うのことです。


わたしはあなたのものです。 もしあなたがそれを望むなら、わたしのすべてをあなたにあげ たいと思う。そっくりそのまま。 ただ今のところどうしてもそれができないだけです。 わかっ てください。


わたしはいろんなことにたくさん時間がかかる、とわたしはそのときに言いました。 細かい 表現は忘れちゃったけど、そんな風に言ったと記憶しています。 あなたは覚えていますか? でも、わたしにはもう時間はそれほど残されていないかもしれません。 だからぱたぱたと必死 の思いでキーを叩いています。 ぱたぱたぱたぱた・・・・・・。 でも通信文は最後まで送り切れないか もしれない。 海水が今にもドアを破ってどっと入り込んでくるかもしれない。冷たくて意地悪


133 第一部