Created on October 11, 2023 by vansw
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「たしかにそれは不思議なことですね」と私は同意した。
「まるで神隠しにあったみたいだと父は言っています」と兄は言った。
「神隠し」と私は言った。
「ええ、この地方では過去において、 神隠しみたいなことがしばしば起こったのだそうです。 主 に小さな子供たちが、 ある日突然わけもなく忽然と姿を消してしまうのです。 そしてそれっきり 戻ってきません。そういう話が言い伝えとしていくつか残っています。ひょっとして、それでは ないだろうかと父は言い出しています。そうとでも考える以外に、うまい説明がつかないもので すから」
「もし仮にそれが神隠しだとして」と私は言った。 「姿を消した子供たちを取り戻すための手立 てのようなものは、何かあるのですか?」
「父親は知り合いの神社の神主に頼んで、毎日祈禱をしてもらっています。 子供を元に戻しても らうように、神様に祈っているのです。 もちろん私はそんなことはただの言い伝えだと思ってい ますが、 父親としてはやはり何かにすがりたいのでしょう。ほかに頼るべきものもないわけです から。 まさに神頼みということですが」
「おそらくご存じだとは思いますが、弟は、M**は、いわゆる普通の子供ではありません」と 医学生の弟が口を開いた。 「通常の社会生活を送る能力にはいくらか不足がありますが、その代 償にとでもいいますか、 とくべつな能力を生まれつき与えられています。 普通の人間ではちょっ と考えられないような能力です。 あるいはそのぶん神の領域に近いところにいると言っていいか もしれない。それは神に愛されることを意味するかもしれないし、あるいは逆にどこかで神の禁
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