Created on October 11, 2023 by vansw

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「私としては、思い出したくないことを忘れられないことの方が気になるかもしれない」


「人それぞれだ」と私は言った。


「そのロシア五人組の中にはチャイコフスキーは入っているのかしら?」


「入っていない。彼らは当時、チャイコフスキーの作る西欧風の音楽に反発してグループを結成 したんだ」


我々はしばらく沈黙を守っていた。 それから彼女がその沈黙を破った。


「私の中で何かがつっかえているみたい。そのせいで、いろんなことがうまくいかない」


「そうかもしれない。 でも君はあとに一人で取り残されてはいない」


彼女は私の言ったことについてしばらく考えていた。 それから言った。


「これからも私に会ってくれるということ?」


「もちろん」


「もちろん、というのがあなたの口癖みたいね?」


「そうかもしれない」


カウンターの上に置いた私の手に、 彼女が手を重ねた。五本の滑らかな指が、私の指に静かに 絡んだ。 種類の異なる時間がそこでひとつに重なり合い、混じり合った。 胸の奥の方から哀しみ に似た、しかし哀しみとは成り立ちの違う感情が、繁茂する植物のように触手を伸ばしてきた。


立校や私はその感触を懐かしく思った。私の心には、私が十分に知り得ない領域がまだ少しは残ってい


るのだろう。 時間にも手出しできない領域が。


かしい 234.ゆっ



관여관ㄱ


滑らかいむ


なめらか



545 第二