Created on October 11, 2023 by vansw

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「その分野のことはとりあえず、できるだけ忘れるように努力しよう」


「ねえ」と彼女は打ち明けるように言った。「そのことについては、私だってすごく残念に思っ ているのよ。たぶんあなたが考えているよりもずっと」


「でも急がないでね。 わたしの心と身体はいくらか離れているの。 少しだけ違うところにある。 だからあとしばらく待っていてほしいの。 準備が整うまで。 わかる? いろんなことに時間がか かるの」


私は目を閉じ、時間のことを思った。かつては――たとえば私が十七歳であった当時は時 間なんて文字通り無尽蔵にあった。満々と水をたたえた巨大な貯水池のように。 だから時間につ いて考えを巡らす必要もなかった。 でも今はそうではない。そう、時間は有限なものなのだ。そ して年齢を重ねるに従って、時間について考えることがますます大事な意味を持つようになる。 なにしろ時は休むことなく刻み続けられるのだから。


「ねえ、何を考えているの?」と彼女が隣の席から私に尋ねた。


「ロシア五人組のこと」、私は迷いなく、ほとんど反射的にそう答えた。 「どうして思い出せない んだろう? 昔はすぐに五人の名前がすべて言えたのに。 学校の音楽の授業で教わったんだ」 「おかしな人」と彼女は言った。 「今ここで、どうしてそんなことが気になるのかしら?」 「思い出せるはずのことが思い出せないと、気になるんだ。君にはそんなことはない?」


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