Created on October 11, 2023 by vansw

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った。たとえ相手が専門家だったとしてもね」


から


私はあの十六歳の少女のことをふと思い出した。 その五月の朝に彼女が口にした言葉を、私は まだそのまま覚えていた。そのとき私は十七歳だった。彼女の声は、その息づかいは、まだ私の 耳にはっきりと残っている。


「あなたのものになりたい」とその少女は言った。 「何もかもぜんぶ、あなたのものになりたい と思う。隅から隅まであなたのものになりたい。 あなたとひとつになりたい。 ほんとうよ」


「がっかりした?」と彼女は私に尋ねた。


私は混濁した意識を急いで整理し、なんとか目の前にある現実に戻した。


「君が男女間の性行為に対して積極的な興味を持っていないことに、ぼくはがっかりしたか?」 「そう」


「そうだね、少しはしたかもしれない」と私は正直に答えた。 「でも前もって打ち明けてくれて、 それはよかったと思う」


「で、そういうことなしでも、これからも私と会ってくれるかしら?」


「もちろん」と私は言った。 「君と会って、こうして親しく話をするのは楽しいから。 そんなこ とができる相手は、この町にはほかにいない」


「それは私にとっても同じよ」と彼女は言った。「でも、あなたのために何もしてあげられない んじゃないかと思う。つまりその分野においては、ということだけど」


543 第二部