Created on August 29, 2023 by vansw
らえてきましたが、それはずいぶん珍しいことなのです。 フツウではないことです。わたしは 三歳のときに本体から離され、壁の外に追いやられ、 かりそめの両親のもとで育てられてきま した。亡くなった母親と、現在も生きている父親は、わたしのことを本当の娘だと思っていま すが思っていましたが)、それはもちろんまちがった幻想です。 わたしは遠くの街から風に 吹き寄せられてきた、誰かのただの影に過ぎないのです。 彼らはそのことを知りません (知り ませんでした)。 そしてわたしのことを本当の自分の子供だと信じていました。そのように誰 かに信じ込まされていたのです。つまり、記憶をそっくり作りかえられていたのです。だから わたしがそのことで自分が誰かのただの影に過ぎないことで) どれくらいつらい思いをして きたか、彼らには想像もつかないのです。
じつを言えばわたしは、 あなたにこうして出会うまで、自分がただの影であることを誰かに 打ち明けたことはありませんでした。 そんなこと誰にも理解できないだろうと思ったから。 頭 がおかしいと思われるだけだろうから。だからこうしてあなたに会えたことは、わたしにとっ てほんとうにとんでもなく特別なできごとだったのです。そんな奇跡みたいなことがじっさい にわたしの身に起こるなんて、考えもしなかったし、正直言ってこの今でもまだよく信じられ ません。でもそれは起こったのです。 風のない朝、晴れた空からなにかきれいなものがひらひ らと舞い降りてくるみたいに。
ずいぶん長く学校にも行っていません。外に出ることが苦しいのです。 何度か行こうと試み ましたが、外に出て角をふたつ曲がることもできませんでした。ひとつめの角を曲がるのがひ
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