Created on October 11, 2023 by vansw

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「素晴らしいウィスキーだ」と私は言った。


「もらいものだけど」


「これも君の儀式みたいなものの一つなのかな?」


「そういうこと」と彼女は言った。「私だけのちょっとした秘密の儀式なの。一日に一本の薄荷 入り煙草と、一杯のシングルモルト。 ときどきはワインになるけど」



「独身者にはそういうささやかな儀式が必要になる。 一日いちにちをうまく送り出していくため に」


「あなたにもそういう儀式みたいなものはあるのかしら?」


「いくつか」と私は言った。


「たとえば?」


「アイロンをかける。スープストックを作る。 腹筋を鍛える」


彼女はそれについて何か意見を述べたそうだったが、結局何も言わなかった。


「ウィスキーのことだけど」と彼女は言った。「私は氷を入れずに、少しだけ水を加えて飲む。 あなたはどうする? 氷がほしければ入れるけど」


「君と同じでいい」


彼女は二つのグラスにウィスキーをおおよそダブルぶん注ぎ、ミネラル・ウォーターを少しだ け足して、 マドラーで軽く混ぜた。 そしてその二つのグラスをカウンターに置き、私の隣の席に 戻った。私たちはグラスを軽く合わせ、 それぞれ一口すすった。ト


「香ばしい味がする」と私は言った。


537 第二部