Created on October 11, 2023 by vansw

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「煙草を一本吸ってもかまわないかしら?」


「もちろんかまわないけど、煙草を吸うとは知らなかった」


「一日に一本吸うだけ」と彼女は言った。 「店を閉めたあと、こうしてカウンター席に座って、 一本だけ吸うことにしているの。 ささやかな儀式みたいに」


「この前のときは吸わなかった」


「いちおう遠慮したの。いやがるかもしれないと思って」


はっか


彼女はレジスターの中から、薄荷入りのロングサイズの煙草の箱を取りだし、 一本を口にくわ え、 紙マッチを擦って火をつけた。そして目を細め、気持ちよさそうに煙を吸い込み、 吐き出し た。見るからに軽そうな煙草だった。量さえ吸わなければたいして害にはなるまい。


「前の時みたいに、うちにきて食事をする?」


彼女は小さく首を振った。「いいえ、今日は遠慮しておく。 お腹がすいていないの。あとで何 か軽く口にするかもしれないけど、今はいい。もしよかったら、ここで少しお話をしない?」 「いいよ」と私は言った。


「ウィスキーは飲む?」


「ときどき気が向いたら」


「おいしいシングルモルトが置いてあるんだけど、つきあってくれる?」


「もちろん」と私は言った。


彼女はカウンターの中に入って、頭上の棚からボウモアの22年もののボトルを取り出した。 中 身は半分ばかり減っている。


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